UN RECUERDO

「10年後の自分」? 明日のことすらわからないっていうのに。

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そして時は確実に流れる。


目を背けようとして結局見てしまったあの部屋の窓のことを、思い出しもしなかったことに信号待ちをしながら気がついた昨日。

彼は確実に、過去の人となったと知った。

スコールのような恋だった。

大地を潤した大量の水分も、

忙しい日々とさりげない数々の優しさの川の中に流れきろうとしている。


人に対する評価の仕方が変化したようにも感じる。

表層に惑わされないようになったというか、

前よりも確かに、人の本質に気がつけるようになったというか。

自分の内面の変化もあったように思う。


落ち着いたと思う。

いい意味でも悪い意味でも。


今ぐらい心に余裕があれば、あの混濁した状況も、うまく乗り切れたかもしれない。


自分に同情するのはやめにしようと思う。

で、ダイエットでもしようと思う。
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わたしはあの頃、誰にも助けを求めなかった。


たったひとりで、かつて愛した人の旅立ちを見送り、自分はいつ旅立とうかと、そんなことばかり考えていた。

誰にも助けて欲しくないし、誰にも理解しようとして欲しくなかった。

彼氏にさえも。



この年齢になると、多くの人にもう二度と、この世では会えなくなる場面が訪れるものだ。

それはアキラだけじゃない。

美由希も安田も、亮くんもみんなみんな、同じ時間を共有していたはずなのに。



強くなりたいと、思えばわたしは何年も前から願っていたのかもしれない。

去ってしまった人は、何も応えてくれないから。



そしてわたしは強くなった。昔よりずっと。

でもこれは麻痺とか無感動とか無関心で置き換えられる‘強さ’だった。



親友が‘死ぬ’ということ。

それは誰の慰めも届かない場所へ、わけもわからぬまま放置されることに似ているのだろう。


わたしはアキラが自殺してから数ヶ月、なぜ自分は生きているのか、何度も自問した。


そして人と深く関わることをやめた。

大学に入ってしばらく、美由希の死もあって、その傾向はさらに強くなった。


積極的に人と関わろうとした去年の心境は、未だに自分でもうまく理解できない。



結局真剣に人と向き合うということは、ニアイコール裏切られることだと思った。

それでも人とか、情とかって、あったかいなって感じることも多かったと思う。



時の経過を感じた。



独りで、生きていける。

同情の愛も、上っ面の理解も要らない。



そう言い切れたらいいのに。





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「守ってやる」



なんて言われたことないなー。

逆はあるのに。

「わたしが守ってあげる」

って。


どんだけわたし強気なんだよー。


別に守って欲しいわけじゃない。

誰かに守られなきゃいけないほど、弱ってもいない。

だいたい、

そこまで人とかかわりたくない。




自分で解決するしかない問題ばかりの世の中だもん。

肉体が危険にさらされることなんてあまりないしね。



酔ってるといえば酔ってるけど、

そんなのいつものことで、

全然頭は生きてるのに、

戻してしまったのはなんでだろう。





「守ってやる」なんて言われたら。

それ信じてしまったら。


あーもうどうでもいい。



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窓の外は曇天で、築25年のおんぼろアパートを揺らす強風も、敷き詰める雲の前では無力のようだ。

今日は土曜日。

自分を甘やかす曜日。


起き抜けにタバコに火をつけ、濃いめのハイボールを作る。

パソコンを立ち上げ、メールを確認する。

あの凍えるような夜から、確実に時は流れている。

わたしは彼の前から、完璧に姿を消せたと思う。

なのになぜ彼はちらつくのだろう。

足跡を残して。

姿は見せないのに。


積極的に生きることを欲していなくても、人間の体はエネルギー源を求めるらしい。

冷蔵庫に食材は余り残っていない。

缶のデミグラスソースに玉葱と豚肉を放り込み、生クリームを加えて温める。

冷凍しておいた鶏肉を解凍し、玉葱とにんにくと一緒に細かく刻んでバターで炒める。にんにくの芽の残りもついでに切って加える。

保存しておいたトマトソースとごはんをフライパンに放り込み、別のフライパンで半熟スクランブルエッグを作る。

2杯目のハイボールを作る。



アキラのウイスキーの飲み方はいつもストレートにチェイサーだった。

それは彼がアイラのモルトウイスキーを好んで飲んでいたからかもしれない。


ハイボールはウイスキーの琥珀色を淡くする。

今となれば、この色はこの色で嫌いではないな、と思う。

少し大人になったのだ。



心がざわつき読書が中断される瞬間もある。

だけど、おそらくは、砂浜にうちよせる波のように、

音もなく引いていくのだろう。

その音を聞き逃さないように、

耳を澄まして待ち続けること。

それが今わたしのすべきこと。 このページのトップへ
自傷行為のような恋愛だった。



こんな日が来ること、傷つく日が再び来ることを半ば覚悟した上で好きでいた。

二度傷つけられ、それでも諦めたくはなかった。

自分のために。

強くなるために。

逃げたくはなかった。

待ちに甘んじることも、できなかった。


その結果がこの現実だけれど。

「人は傷つくたびに優しくなる」という言葉を信じて。



だけど。ふいに現われる彼の幻影に切なく締め付けられるのは避けられない。

図書館の研究個室、中島美嘉の『Fed up』、としの家に向かう途中のあの道、避けて通るには遠回り過ぎて見ないように前方にだけ集中しようとして結局見てしまう彼の家の明かり、

シャワーを浴びているとき、

チャイムが鳴った時、

タバコに火をつける時、

目を覚ました時、

家の鍵をかける時。


未だに行けない場所。


思い出のラーメン屋、学内で会ったあの場所、サイゼリア、理系の修士棟、図書館の研究個室。



わたしはお世辞にも、モラルのある人間ではない。

道徳、倫理。

わたしの人生の邪魔ばかりする。



わたしはアキラの死を知ったあの日から、

がむしゃらに「幸福」を探した。

突きつけられた現実から目を背けるため、

彼とは違う方法で「人生」を見つけようと。


アキラのことを忘れるためなら、愛のないセックスも平気だった。


むしろ、そこに愛を探そうと。

アキラの時に出会ったそれと、再び出会えることを期待して。

忘れたいわけじゃなかったのに。






もしもただ一つ願いが叶うなら、

1ヶ月前に戻して欲しい。


出会わなければよかった。




報われなくても、

出会えてよかったと思えた前の恋愛とは違う。


一方的で、理不尽で、凍りつくような結末。


なのになぜ憎めない。なぜ恨めない。


哀しくて、切なくて、1mgの可能性も残っていないのに。


なのに。


幸せになるんだよ、って

わたしの知らない彼女とでも。



独りで涙することに慣れたわたしでも、

しばらくは恋愛休暇をとろうと思う。



そのうちまた恋はするだろう。

ものすごく先かもしれないし、3日後かもしれない。

だけど次の恋愛は、

お願いだから、

穏やかな、春の風のように優しい、

そんな恋であって欲しい。















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YURI
  • Author: YURI
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